カレンダー
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

おくどさん

d0116099_851595.jpg
おくどさん

 「おくどさん」と呼んで「は~い」という返事はありません。 これはかまどを京都の言葉で呼んだものです。大根や油揚げ、麩などを「お大根(おだい)」や「お揚げさん」、「麩さん」の様に、食材に「お~さん」をつけて呼ぶことが結構当たり前になっている京都らしい愛称です。

 「うなぎの寝床」という言葉を耳にした事はありませんか? 京の町屋には間口が狭く、奥行きが深くなっている所が多くあります。 暖簾をめくって覗いてみてびっくり。 想像以上に廊下が延々と続いていて40メートルくらいはあるかもしれないと思ったことがあります。 入り口から裏口まで庭が通り(通り庭)、畳の客の間、玄関そして台所、奥の間が続き、その途中の通り庭に走り(流しのこと)先というものがあります。 そこに井戸や水屋と一緒におくどさんがいるのです。

 おくどさんの上には三宝さん(布袋さん)が大きいものから小さいものまでずらりと神棚に祭られ、荒神松がお供えしてあります。 かつては祖母の家に入ると、まるで石の様な台が横たわっていて、そこに「おくどさん」が埋まっていました。 私がまだ小さかった時の記憶なので、ぼんやりとしか覚えていませんが、そこの天井には高い天井をしっかり支える梁が左右に伸びていて、どちらかというと薄暗い雰囲気が漂う台所でした。冬場は冷えます。 薪をくべるための小さな口もついていて重い鉄の扉が付いていた様に思います。 今のキッチンの様に、できた料理をテーブルへポンッと置くのではなく、一旦突っかけを脱いで土間から別の部屋の障子を開けて上がり、よっこらしょ、とその日のおかずをちゃぶ台に載せる、といったものでした。

 今はもう、祖母の家におくどさんはおられません。 数年前に台所のみを改装してしまい、あの暗~い「台ドコ」が明るくさわやかな「キッチン」になってしまいました。 あの天井や台所の裏の井戸水はまだまだ現役だし、新キッチンも新しい木や和紙を使っていてきれいなのですが、私はこういった古いものに興味が湧いてから今更「なんてもったいないことを」と悔やんでしまいます。

 祖母の家の隣には代々の店と工場があり、昔はそこの住み込みさん(住み込み社員)の分の大量のおばんざいも祖母の家のおくどさんで炊いていました。 今では住み込みさんの数も減り、一度にたくさんのおかずを作る必要も無くなったためでしょうか。 おくどさんは居なくなってしまいました。 京都の古い家やお寺の厨、古い料亭などでもおくどさんはまだ健在です。 あるお寺の厨で湯気の上がるおくどさんを見つけた時には何だかほっとしました。 まだ働いていたんだ・・・。 あの醤油色のお台所が懐かしい。 おくどさんで炊いた御飯が食べたくなります。

 もちろん、キッチンでもおばんざいは作れます。 しかし祖母や叔母は未だに新キッチンを、「汚すからもったいない」と言ってもっぱら別のステンレスの台所で食事の支度をしています。キッチンだからこそおばあちゃんの味、おばんざいの味だけは、おくどさんが居なくても残していかなくてはならないのかもしれませんね。
[PR]
by taoya3 | 2007-05-15 08:52